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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)142号 判決

以上争いのない事実によれば、本件審決は違法であるから取消を免れない。よつて原告の本訴請求は正当であるから認容する。

〔編註〕 本件における事実関係は左のとおりである。

一 原告は主文同旨の判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。

(一) 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和四一年六月七日特許庁に対し、名称を「半導体圧力変換器」とする発明につき特許出願をし、同四五年九月二二日出願公告されたが、異議の申立がなされ、同四六年五月一七日付でその特許請求の範囲を補正したところ、同四七年五月二四日補正却下の決定とともに拒絶査定を受けた。そこで原告は、同年八月一九日審判の請求をし同年審判第五六六六号事件として審理されたが、同四九年八月二二日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年九月一七日原告に送達された。

(二)1 出願当初の本願発明の要旨

測定すべき圧力雰囲気内に挿入される圧力変換器本体と、該圧力変換器本体に周辺部の固定される可撓性ダイヤフラムと、該ダイヤフラムの内側面に固定されるゲルマニウム、シリコン等の半導体単結晶薄片よりなる半導体歪変換素子とを設け、該半導体歪変換素子により前記ダイヤフラムに作用する圧力変化を検出するものにおいて、前記半導体歪変換素子は特性の等しい第1と第2の素子を選択し、該第1の素子は前記ダイヤフラムの中央部に生ずる正の半径方向応力の作用域内に直径方向に沿つて固定し、前記第2の素子は前記ダイヤフラムの周辺部に生ずる負の半径方向応力の作用域内に前記第1の素子に対して直角な半径方向に沿つて固定し、前記第1及び第2の素子の両端よりリード線を引き出して適当なブリッジ回路を構成し、ダイヤフラムに作用する圧力を高感度に且つ温度補償して計測する事を特徴とする半導体圧力変換器

2 補正後の特許請求の範囲

測定すべき圧力雰囲気内に挿入するために圧力変換器本体の一端部にねじ部及び該ねじ部の先端に小径の突出部を形成し、該圧力変換器本体の突出部に固着した座金の端面周辺部には脚筒部を一体的に形成したる可撓性ダイヤフラムを破嵌して固着し、該ダイヤフラムの内側面に固定するべくゲルマニウム、シリコン等の半導体単結晶薄片よりなる特性の等しい第1と第2の半導体歪変換素子を選択し、該第1の素子は前記ダイヤフラムの中央部に生ずる正の半径方向応力の作用域内に直径方向に沿つて固定し、前記第2の素子は前記ダイヤフラムの周辺部に生ずる負の半径方向応力の作用域内に前記第1の素子に対して直角な半径方向に沿つて固定し、前記第1及び第2の素子の両端よりリード線を引き出して適当なるブリツジ回路を構成し、ダイヤフラムに作用する圧力を高感度に且つ温度補償して計測する事を特徴とする半導体圧力変換器

(三) 審決理由の要点

補正後の特許請求の範囲(以下「補正後の発明」という。)は、前記一、(二)、2のとおりである。

ところで、朝倉書店 昭和三〇年九月一〇日発行 応力測定技術研究会編 「応力測定法」第一七八頁から第一七九頁までおよび第二五三頁から第二五六頁まで(以下「第一引用例」という。)には、温度補償を兼ねて検出部を差動型にする抵抗線歪計の受感部として、ダイヤフラムの中央部および周辺部における各正および負の応力範囲にそれぞれ互いに直角に、かつ、直径方向に配置された歪検出素子二個ずつを取付け、その四個の歪検出素子をブリツジに結線して検出する圧力計が示されており、同じくIndustrial Electronics 一九六五年九月号 第四一四頁から第四二〇頁まで(以下「第二引用例」という。)には、ダイヤフラムに半導体歪検出素子を取付け、正および負の歪を測定する半径方向に装着した歪計が示されている。

そこで、補正後の発明と第一引用例のものとを比較検討すると、両者ともダイヤフラムの中央部および周辺部に生ずる正および負の応力の作用域にそれぞれ互いに直角に、かつ直径および半径方向に固定しかつ、これらの歪変換素子(歪検出素子と同じ)によりブリツジ回路を構成しダイヤフラムに作用する圧力を温度補償して計測する点で一致しており、<1>ダイヤフラムの正および負の応力作用域に固定した歪変換素子が、補正後の発明は特性の等しいものを各一個であるのに対し、第一引用例のものは各二個である点、<2>補正後の発明は歪検出素子として半導体結晶薄片よりなる歪検出素子を使用したのに対し、第一引用例のものは抵抗線歪検出素子を使用している点、および<3>補正後の発明は本体の一端部に設けたねじ部先端に小径の突出部を形成し、該突出部に固着した座金の端面周辺部には脚筒部を一体的に形成した可撓性ダイヤフラムを被嵌して固着しているのに、第一引用例のものにはその点の構成が記載されていない点で一応相違している。

前記<1>の相違点について、歪検出素子を同一特性のものを二個使つて差動型に構成するか四個を使つて差動型に構成するかの違いである。しかし、歪検出素子を複数個用いる計器では素子の特性が等しいものを選定することは当然考慮すべきことであり、また、二素子のブリツジ回路の検出器も四素子のブリツジ回路の検出器も本願出願前当該技術分野において周知の手段であつて(例えば 技報堂 昭和三一年六月三〇日再版発行 服部敏夫著 改訂増補工業計測器 第四二四頁から第四二七頁までおよび第四三五頁参照)、本願のように構成することは当業者が容易にできる単なる設計上の事項にすぎないものと認める。

また、上記<2>の点については、歪検出素子として抵抗線歪素子を使用するものも、半導体歪素子を使用するものも第二引用例にみられるように本願出願前周知のものであつて、この点も単なる均等物の置換にすぎないものと認める。

さらに上記<3>の点については、このようなものにおいて被測定体に螺着して取付ける構成は慣用手段であり(例えば、コロナ社 昭和三九年一二月一五日改訂第七版発行 改訂工業測定便覧 第四三三頁参照)、ダイヤフラムの取外しの容易性等から突出部を設けた座金の端面周辺部に脚筒部を設けたダイヤフラムを被嵌させる構成も、固着手段としては一般的に行われている手段であつて、その目的に応じて当業者が必要により容易に実施できる単なる設計上の事項にすぎないものと認める。

したがつて、補正後の発明は、前記第一、第二引用例のものから当該技術分野のものが容易に発明できたものと認められるので、前記手続補正は特許法六四条二項で準用する同法一二六条三項に違反するものとして同法五四条一項により却下した原審の決定は妥当である。

次に本願の発明の要旨は、前記一、(二)、1のとおりである。

これは、前記補正後の発明における構成要件から圧力変換器本体とダイヤフラムとの取付構成の限定をしていないものに相当する。ところが前述したとおり前記補正後の発明が第一、第二引用例から当業者が容易に発明することができるので、本願の発明はそれと同じ趣旨により当業者が容易に発明できるものと認められる。したがつて、本願の発明は特許法二九条二項の規定により特許を受けることができない。

(四) 審決を取消すべき事由

審決は、ダイヤフラムを座金に固着するという補正後の発明の構成の技術内容を次のとおり誤認しているから違法であり、取消されなければならない。

ダイヤフラムを座金に固着する構成を用いずに、ダイヤフラムを直接圧力変換器本体の突出部に接着すると、圧力変換器本体のねじ部を被測定壁に取付けるときに、ねじ部のしめつけ力による力がダイヤフラムに加わつて、ダイヤフラムが測定圧を受けていないのに歪を生じ、これが測定誤差の原因となる。これに対して、この構成をとると、ねじ部のしめつけ力による力が座金で受けとめられ、測定すべき圧力のみがダイヤフラムに加わることになり、他の構成と相まつて、本願発明の目的である高感度、高出力、高精度の半導体圧力変換器を得ることができる。しかるに審決は、この構成のこのような技術内容を看過し、これをダイヤフラムの取外しの容易性のための固着手段であり、慣用手段であると誤認している。

二 被告は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、原告主張の請求原因事実はすべて認めると述べた。

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